誰にも心を開かない、誰とも接触しない。
そんな可哀想で孤独な人生を送るあの子の心の壁に、唯一割入って笑顔を作らせたのが私だって、そう思ってた。
思ってたというよりは、願ってた。
あの子のこれからの人生でそんな人物は、私、一人だけだって。

私にだけ笑ってくれればいいや、  って。



独占欲 - 前編

村雨 真衣 × 風渡 矢麻吹 (Whiteh heaven)





「え、え、え  何?それ、自分から誘ったの?」

意外すぎる言葉に、アタシは混乱していた。
話によると流ちゃんが夕ちゃんをウチに泊まりに来ないかって誘ったんだって。

「・・・前に一度、世話になったからな。」
「世話?」
「ああ。雨宿りに寄らせてもらった。」

「ふーん・・・」

何となく気分が浮かない。夕ちゃんが遊びに来るのが嫌なワケじゃなく、何か、 流ちゃんから誘ったってのがアタシの中では気にくわない。

「・・・どこ行くんだ」
「しらなーい。散歩じゃない?行ってきまぁーす」

こんなむしゃくしゃしたのは久し振りだった。
いつもは流ちゃんの腕を引っ張って一緒に行きたいって思うけど、何か一人でいたい気分だった。それに・・・

「・・・夕立くるかもしれんからあまり遠くに行くなよ」

流ちゃんの言葉を無視してアタシは玄関のドアを閉めた。

「・・・」
「・・・・・」

「・・・流ちゃんのバカァ!!追いかけて来いってぇの!知らない!!」

いつもならアタシが何か落ち込んだり不機嫌だったりすると何だかんだで構ってくれる。
今ならきっと追いかけて一緒に散歩するって言ってくれるんじゃないかって・・・思ってたのに・・・

「ちぇっ。ナイスバディーな女の子よりチャラ男の方がいいのかよーバァーカ!!
  男好きー!!夕ちゃんと仲良くイチャついてろー!!!」


「・・・おま、何言ってんの・・・」
「わ゙?!」

夕ちゃんがアタシの後ろに立ってた。もしかしたら今の聞かれたかも?

「聞いてた?」
「オレは別に男とイチャつく趣味はねぇから。」
「アハハ、だよね。」

気まずぅー・・・・。
別にアタシがどう思おうと、流ちゃんと夕ちゃんが仲良くしようと、関係ないのに。
むしろアタシは流ちゃんに新しい友達ができたことを喜んであげなきゃなのに。

「・・・・・流ちゃん、待ってたよ。」

アタシは必死に笑顔を作った。いつも真顔の方が疲れるのに、今だけは笑顔が疲れる。
夕ちゃんは「おう」って答えた。

「真衣はどっか行くん?」
「え、あぁ・・・ヒマだからどっか散歩でもしようかなーって。」
「なら矢麻吹がヒマ気だったぜ?」
「ブッキー?」

ブッキーとは、戦って以来ちょくちょく話すようになってた。戦った直後はアタシのコトを怖がってたみたいだけどすぐに打ち解けて今ではけっこう良いトモダチ。そうだ、ブッキーのトコ行こう。家も知ってるし。

「そうする!」
「そっか。喜ぶぜきっと。マジでヒマしてたっぽいから。
  あ、でもいいんか?一緒に遊ばなくていいん?流馬さん寂しがるんじゃね?」

・・・・。馬鹿だ、夕ちゃんめ。アタシがいたらきっと流ちゃん・・・夕ちゃんとはあまり話さないじゃんか。アタシは流ちゃんを応援しないとなのにさ。

「バッカだなぁ夕ちゃん。んなワケないでしょ?
  アタシがいなくても夕ちゃんがいればいいの!OK?じゃあ楽しんでねー」

アタシはまた疲れる笑顔をしてその場を去った。
でもブッキーのマンションを目指す途中、突然の雨。流ちゃんの言った通りだった。ブッキーの部屋の前に着いた時にはもうずぶ濡れ。ゆっくりとインターホンを押して、相手の応答も待たないままドアを開けた。

「おじゃまします」
「ぇ、真衣さん?!」

そんな予告も無しで?!・・・とでも言いたげにブッキーがアタシを見る。そして濡れたアタシを見るなりお風呂場からタオルを持ってきて貸してくれた。

「えへへー、ありがと!流ちゃんとは大違いだねぇ・・・」
「いや、これが普通の対応だと思いますが・・・。っていうか、何でここに?今日は確か流馬さんの家に台岱さんが行くから・・・一緒に遊べばいいのに」
「・・・・いいの。もうブッキーの所為だ!!あほぉ!!」
「えぇッ!!?理不尽!!」

アタシは広い窓から町を見下ろした。遠くに海が見える。
遠く雨で霞んだ海は空との境界線を消しつつ存在していた。

今日はもう、ブッキーの家に泊まらせてもらおう。 そう思った瞬間。


「・・・流馬さんを独占したいワケですか?」

ブッキーが言うには随分と直球でトゲのある言葉だった。
でも、それは今のアタシに一番必要だったコトなのかもしれない。その言葉で心を射抜かれた瞬間、アタシはこのむしゃくしゃした気持ちの真相を全て悟った。

「・・・よく分かったねぇ・・・ブッキー。 その通りだよ。」
「もう二人は充分仲が良いように見えますけど。」
「バッカだなぁブッキー。流ちゃんは誰にだってああなんだよ。・・・アタシなんていなくてもいい」

言葉に出せば出すほど空しくなった。そうだ、きっと流ちゃんはアタシのことなんてただの付き合いの長い知人、程度にしか思っていない。アタシが勝手に騒いで絡んで喜んでいるだけ。ブッキーにまで愚痴って、最低だぁ・・・。

「それは違うと思います。貴方がこの町に来てすぐの頃、流馬さん、結構嬉しがってましたよ?真衣さんとは昔からの付き合いだからお互い元気なまま再会できて嬉しいって。」

「・・・・・・。ホント?」

笑顔で頷くブッキーを見ても、アタシはそれが信じられずにいた。だって、流ちゃんが「嬉しがる」なんての、見たこともない(第一あの冷徹男に喜ぶ器官があると思えない)

「きっと寂しがってますよ流馬さん。帰って一緒にいてあげて下さい。っていうか貴方もすごい寂しそうです。」
「・・・・・・・・う、ん。 分かった・・・。」

ポジティブに考えてみた。・・・だよね、アタシが嫌いなら一緒になんて住ませてくれないもんね。仕方ない、明日の朝一に帰ってやるか・・・。

「ってコトで!!ブッキー今夜はお世話になります!」

「ハイ。 ・・・ッえぇぇ!!?」

inserted by FC2 system