あまりに暇すぎて寝ようかとベッドでごろごろしていた土曜の夕方6時半。
外は土砂降り。ちょーどさっき降り出した所で、外ではびしょ濡れになりながら走ってる奴が何人かいる。 気の毒だねーなんて考えながらまだベッドに横になった。

『〜〜♪♪』 LINEの通知が鳴る。
「はいはい誰ですかー・・・。」と、気ダルい体を起こしテーブルの上のスマホを取った。 送信元には『流馬さん』とある。向こうからLINEして来んのってかなり珍しい。つーか多分初めて。

急いで文面を見ると『行っても平気?』の文字。オレは思わず「は?!」と顔をしかめてしまった。 だって、なぁ・・・。リアルですら滅多に話しかけられる事も無いし・・・。ID交換してもうしばらく経つけど数えるくらいしか連絡とったこと無いような状態で。

だからこそ驚きは大きいワケで。
でもオレも暇だったし遊びに来てくれんなら嬉しいから『おっけー待ってます』と返しといた。 そしたらすぐに玄関のインターホンが鳴る。どんだけ近くから連絡してんだって話。

出迎えたらその理由が分かった。

明け方、すぐそこまで

台岱 夕 / 群青 流馬 (White heaven)



「え、ビショビショじゃないすか・・・傘は?」
「持ってなかった」

あからさまに夕方辺りから降りそうなカンジだったってのに・・・。ヘンなトコで抜けてんだよな、この人・・・。 とかそんな事考えたら流馬さんが寒そうにしてた。 取りあえずタオルは貸したけどやっぱ服が濡れてるしな、家に上がってもらうか。

「何か着るモン貸しますよー」
「・・・悪いな」
「いーですいーです。じゃあどーぞ。」

流馬さんはちゃんと濡れた靴下を脱いで靴まで揃えて上がってきた。 態度は悪いのに行儀はいいな、なんて関心してしまう。 極度の寒がりだから、上着を貸してもしばらくは寒そうだった。

「雨止むまでいてもいーですよ」
台所からお茶とテキトーに茶菓子を引っ張り出してきてテーブルの上に置いた。 やっぱ、何つーか・・・、友達ならアレだけど流馬さんだと何か同じ訪問者でも「お客さま」的なカンジがして・・・。 ちゃんと待遇しないといけない気になるよな、甘いもん好きだし。

その後色々話したりテレビ見たりして時間を潰したけど雨が止む感じは全然しない。 時間はもう8時過ぎ。こりゃ朝まで止まないかな・・・。

「・・・・泊まってきます?」
「・・・え、いや、悪いからいい・・・。」

傘を貸せれば一番良いんだけどオレが全部遊びに使ってぶっ壊したりなくしたりしたからマトモなのが無い。

何かすげー申し訳ない気がしてきた。この人ぜってーこういう空気苦手だろうしな。

「いーですよ!泊まってって!」
「・・・・。」

流馬さんはしぶしぶ「じゃあ・・・」と言って納得した。 この様子だと人ん家に泊まった事とかぜってー無いよな。うん、無ぇよ。

「ヒトん家泊まったコトあります??」
「・・・和真の家には何回か・・・」
和真はオレの幼なじみであり流馬さんの親友だったりする。和真の事だからきっと強制的だよな。 でも流馬さん和真とはかなり仲良いから以外と自分から・・・なんて、な。

その後も結構話とかしてた。話し込むと以外とよく喋るこの人は案外良い話し相手になったりする。 話してて分かったけどこの人がLINEしないのは話が嫌いなんじゃなく単なる機械音痴なんだよな・・・。 さっきの「行っても平気?」文章も打つのに結構時間が掛かったとか。 聞く所によると?マークの出し方が分からなくて?マークを出すまでに1分くらいかかったらしい。オレは爆笑。 マーク使わなくていい他の言い回し考えろやってツッコミ入れたら無言で睨まれた。

そんなバカやってたら時間は過ぎて。その後は土曜の夜定番の番組を見てまた下らない会話をした。 普段口数が少ないだけあって流馬さんのそのギャップが結構オレは好きだったりする。

気付けば1時を回ってたので取りあえず流馬さんに布団を貸し寝る事にした。


そんで、まぁ寝たんだけど。

5時半頃かな、急にスマホが鳴ってオレは半ば強制的に起こされた。流馬さんもつられて起きる。 それは下らないバカ(姉)からのメールだった。京都からこっちに来るそうで家が分からないから駅まで迎えに来いという何ともムカつく内容だった。

「チッ、めんどくせー姉貴だな・・・」

流馬さんがカーテンを分けて外を見るともう雨が止んでいて。 もううっすらと明るくなっていた。あの、日は昇ってないけどもう明るい?みたいなカンジ。

「駅ってどこだ」
「え、流馬さん知らないんすか?えっとね、すぐそこですよ。交差点曲がったとこ」

「じゃあ・・・オレも帰るな。」
「あ、りょーかいです」

駅と流馬さん家は途中まで同じ方向だから一緒に家を出て歩いていった。 雨上がりの明け方って何かすげー神秘的。いいカンジだ。

「今日は悪かったな・・・。上着は洗って返す。」
「え?んなご丁寧にしなくていーっすよ。そのまんま返せば。」

そんな事を話しているうちに駅と流馬さん家の分かれ道に着いた。

「じゃー駅の道コッチなんで。」
「ん、分かった。」

流馬さんは悪かったな、と一言礼を言って歩き出した。 結構厚い上着貸したつもりなんだけどまだ寒そう。何だか女みてーだな、なんて思った。


「りゅーまさんっ!今度は雨降ってなくても来ていーですよー!」

オレがそう言うと流馬さんは立ち止まって振り向いた。 そして一瞬困ったような顔をして

「気が向いたら、な。」

と言って、 帰っていった。


さて、今度はうるせー姉貴のお守りだな。
オレも走って駅に向かった。





*

2010. 明け方、すぐそこまで。

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